忘れもしない2016年12月30日晴天、曜日は忘れました。
親戚に子ども4人を預け、片道4時間かけて、日帰りでカミさんが会いに来てくれました。
子どもは入室禁止なので、ゆっくりと会いに来てくれるのは初めてでした。
着替えを交換し、「痺れ・めまいが強まってるんだ」なんて話をしつつ、シャワールームで全身を洗ってもらい、遠慮なく綺麗にしてもらいました。
ひと段落した後、1階のカフェに行ってみようということになりました。
いつも吹き抜けのオープンカフェでくつろいでいる人々(おそらく見舞いの家族か出入りの業者か大学生)を横目にリハビリ室に行くのですが、なんせオープンなカフェですからコーヒーの良い香りがフロア中に広がっています。
珈琲とちょっと邪道な甘い香りの織りなすハーモニーが鼻腔をくすぐり、こっちへおいで〜、と誘惑してきます。
しかしここは緊急病院。重篤な患者も多く、当然カフェインなどもっての外!サラサラの液体自体飲むことを禁止されてる方も多いでしょう。それなのにこの香り。
自分の場合は飲み物は禁止されてはいませんでしたが、カフェインは飲まないように言われていました。それなのにこの香り。
いやがらせか!
自力では移動できないので、誘惑に負けることはありませんでしたが、「いつか飲んでやろう!退院するときに絶対飲んでやる!」と意気込んでいたもんです。
退院はしていませんがそのチャンスがやって来たのです。
「よし行こう!」と早速、車椅子をカミさんに押してもらい、看護師さんに恐る恐る断わりを入れ1階のオープンカフェに向かいました。
「エレベーターの障害者ボタンが低い位置にあるのはこのためか」、と再認識しつつ「1F」と書かれたボタンを押し、ゆっくり動く病院仕様のエレベーターでしたが、それでも若干気持ち悪さを感じつつ1階に着きました。扉が開くと、そこはすでに甘い誘惑のフェロモンが。
いつも吹き抜けの対岸から横目に眺めていたカフェの方へぐるっとまわりこみます。
だんだん入り口が近づいて来ます。
綺麗に描かれたチョークアートや花々がかざられていて、とても病院とは思えません。
店内に入ると、並んでるお客さんが皆こっちを向いています。
反対でした。
仕切られた店舗内は細長く一方通行になっており、カウンター前で注文・受け取り・支払いをするだけで、飲むのは店舗外の一面ガラス張りのオープンテラス(病院内)で、という仕組みだったのです。そこに出口から入ったものですから、みんなと目が合って恥ずかしかったです。
店内は狭く車椅子は入れないため(だから入口が分からなかった)、外側に設けられた小窓まで店員さんが来てくれるのです。病院なのに!
・・・今気づいたのですが、「病院なのに車椅子が入れないなんて!」と思ったのは間違いで、飲んじゃいけない患者が間違えて入って来ないようにわざとしていたのでしょうか?考えすぎか。
で、まあ小窓のところに並んでメニューをもらいました。
車椅子で並んで注文を待っている様子は、さながら車椅子のドライブスルーです。変な感じ。
カフェインの入っていない、「ホワイトチョコレートなんちゃら風なんちゃらクリーム添え」という長ったらしい、まるで記憶障害の患者を排除するかのような甘ったるい名前の飲み物(ほとんど食べ物?)を注文し、吹き抜けのすぐ側にあるテラス席へ座りました。さっきからずっと座ってるんですけどね。笑
カミさんと向かい合うようにして席に着き、甘ったるいネーミングの飲み物を飲みました。
めっちゃ美味しかったです。
左手は3階分の吹き抜けの広い空間。右手は3階まで広がる壁一杯のガラス窓。耐震構造大丈夫?と思わず心配ちゃうほど。
遠くの山々から、晴れ渡った青空まで一望できます。
病棟の殺伐とした無機質な感じとは打って変わって、「ここは天国か」と思っちゃう程。
ま、ある意味本当に「天国に一番近いカフェ」ですけどね!救急病だけに。
ちなみに実家の近くの病院は隣がお寺で有名です。
でも、本当に結婚・巡業・出産とバタバタした新婚時代を過ごした我々夫婦は、こうして2人きりで向かい合ってゆっくりするのは結婚以来初めてで、久しぶりにデートしてるみたいでとても新鮮でした。救急病院と夫が車いすというのを除けば。
電車とバスを乗り継いで、往復8時間かけてわざわざ会いに来てくれて嬉しかったですね。「遠いからいいよ」と言ったのですが、「逢いたいから」と言われ、久しぶりに愛情を感じました。
まだ愛されてたんだなぁ
(笑)
ついこの間までは普通に暮らしていたのに、車椅子で介助なしではどこへも行けなくなるなんて誰が想像したでしょうか。
右半身が痺れて、右手右足の感覚もなく、左の手先まで痺れが広がっていました。
右耳は常にセミが鳴くような耳鳴りがしてよく聞こえず、左目も使い物にならない。
オシャレなテラスで夫婦2人で向かい合い、痺れた右手をカミさんにさすられながら、じっと見つめ合っていました。
「こんなことになっちゃってごめんね。」と、なんだか照れ笑いをしながら言いました。
その時、カミさんの目から涙がぽとりと落ちました。
「生きててくれただけでいいよ。」と、言ってくれてなんだかとても救われました。
自分のせいで家族に迷惑をかけ、親戚中に心配をかけ、忙しい時期に仕事ができず、本当に申し訳ない気持ちで一杯でした。と同時に、この先どうなるかわからない不安でいっぱいで、ガラーンとした病室にたったひとりの年末。そんなところへ「生きててくれただけでいいよ。どこにでもついていくから」と言われて、「あ、このままでいいんだ」とどこかホッとできたのを覚えています。
30才過ぎてもまるで結婚の気配もなかった自分。34才で電撃結婚しましたが、独り身だったらどうしてたんだろうと、今でもときどき思います。
このときは結婚しててよかったなあと本当に思いました。
・・・あ、もちろん今も思ってますよ。
次回は静かな年末に死にかけた話を。
コメント
車いすのドライブスルーて便利そうですね。私は外歩きは電動車いすなんですが、立って並んでる人たちとは高さも違うし、付き添いの人がいてもぶつからないようにとか気を遣うし、でも専用窓口なら一人でも気軽に利用できそうな気がします。
前回の、「若い看護師さん」が畳みかけられた愉快な話から一転、奥様とのしみじみとしたいいお話でしたが、次回はまた死にかけるという物騒なお話なんですね。心しておきます。
たびたびコメントありがとうございます😊こんな事を言うと不謹慎ですが電動車椅子ちょっと憧れます。次回死にかけると言いましたが、全然生きてますのでご安心ください〜また更新しますね