第30回 妖精ちゃんと飲み込み検査

さて、2017年1月も終わりに近づいた頃、新たな入院生活に入り思うように身体も動かせず、寝てばかりで冷たい食事に益々食欲がなくなり、早く退院したいと、そればかり考えていました。
そんな中、新たなリハビリ担当さんがやって来ました。
小麦色の肌をした小柄なビーチの妖精がやって来たのです。
第一印象はいわゆる健康的なスポーツ女子」でした。
「はじめまして、今日から担当することになりました妖精ちゃん(仮)です。あ、お若いんですね。40代の劇団員と聞いていたので、温水さんみたいな人を想像してました(笑)」
と、しょっぱなから「温水さん」と言われてしまいましたが、当時はあまりにもしんどくて笑顔も出せませんでした。顔も半分くらいマヒってましたしね。
それから、一通りの検査をしました。彼女は「言語聴覚士」といって、主に喉と口周りを見てくれる先生でした。当初は必要ないと思われていましたが、顔に若干の麻痺があるということで追加でリハビリが決まったのです。このように、担当の医師が必要かどうか判断してリハビリの先生が割り当てられるのです。
ちなみに、言語聴覚といっても耳には何もしてくれません。一度妖精ちゃんにも「聴覚って何するの?」と聞いたんですが、
「あ、そういえば聴覚は何もしませんね。言語聴覚士って言ってるだけです」
と言ってました。耳はリハビリのしようがないそうですが、それにしても身もふたもない・・・(笑)
そのころどんな状態だったかというと、右顔面の主に口周りから右耳にかけて痺れて麻痺状態で、右側の口角が上がらず、左目が左側に動きませんでした。
右は見れます。左を見ると寄り目状態になります。
ベロや唇の動きも鈍く、喋りもモッサリしてました。歯医者で麻酔をしたことある人ならわかると思いますが、何かが挟まったような引っかかってるような落ち着かない感じがずっとしていました。
それから「飲み込み検査」というものもやりました。
ストローで水を飲むだけなのですが、何度やってもなぜかむせます
「おかしいな?」と思いました。ただの水を飲むだけなのに咳が出てうまくいきません。
そこで後日精密検査をすることになりました。
まあ、精密検査と言ってもいわゆるレントゲン検査なんですけども、この検査、どうやってやるのかというと・・・なんと!レントゲンを撮りながら食べたり、飲んだりするのです!
食べちゃ、撮り、飲んじゃ、撮り・・・じゃないですよ?撮りっぱなし。
撮影しっぱなし、です。
何言ってるかよくわからないですか?
レントゲンって、骨折や肺の状態なんかを見るときに使いますよね?健康診断なんかだとおなじみの人もいるかと思いますが、「息吸って。止めて。ハイ、パシャッ」
って感じですよね。撮るのはもちろん一瞬。出来上がりの写真はもちろん静止画ですよね?ところが・・・
しゃれこうべ

これが動きます・・・そして食べます

飲み込み検査は動画なんです!!
レントゲンなのに動画です!レントゲン画像が動きます!
レントゲンって、動画も撮れルンです!!  知ってました?
どんな風に撮影するかというと、まず、大きな窓のあるレントゲン室でレントゲンの機械の前に座ります。
窓ガラスの向こうにはお医者さんやら、担当さんやら、技師さんやらがいます。
室内には、食べ物や飲み物を口に運んだり、レントゲンの位置を調整するために一人か二人のスタッフさんがいることもあります。もちろん鉛の入った防護エプロンをかけて被ばくに備えています。
顔の横にレントゲンカメラが来るように座ります。側面から食べ物や飲みものの動きをみるためです。そのすぐ横にはモニターがあります。
窓の向こうからマイク越しに命令がきます。「ごはん一口お願いします」とか「水5㏄飲んでください」とか。その指示に従い、米飯や、鶏肉、水を飲むのですが、そのままではレントゲンにはっきり写りません。
そう、ここで活躍するのがバリウムです。
健康診断なんかで飲んだことあるんじゃないでしょうか。あの白い液体です。ご飯も鶏肉も水もバリウムまみれ。もともと粉末なので水はまだしも、固形物はねちゃねちゃのパッサパサになります。それを噛み砕いて飲み込むのですから口の中の水分全部持っていかれます!なかなか飲み込めません。水で流し込むことも許されません。
噛んで噛んで噛んで噛んで・・・ゴック・・・のめない・・・もう一回・・・ゴックン・・・おえー、って感じです。戻しはしませんでしたけどね。
噛んで飲み込むまで、じーっとみんなに見られます。シーンとした室内で自分の噛む音だけがします。「早く飲み込まなきゃ!」と焦れば焦るほど喉に引っ掛かります。
その間も被ばく撮影は続いてるのでますます焦ります。何度もカメラの前で演技をしてきましたが、まさかレントゲンカメラの前で食べるシーンを撮られるとは思いませんでした。ふと自分の姿が気になり、首が動かないようにしながら、ちらりと横目でモニターを見ました。
・・・見ましたとも。自分の生きた髑髏(どくろ)を。
ガイコツのアゴがガチャガチャと動いて、飲み込むと白い物体が喉を通って落ちていきます。
ガイコツがモノを食べる様子はまさにホラー映画のようでした。
この検査は何度もやったのですがほんとにイヤでした!
被曝するので2週間開けなきゃいけないという、何気に恐ろしい検査なのでした。
で結局、なにがわかったかというと、麻痺が喉にまで出ているので、水分が気道(気管)の方まで入っていたらしく、それでむせていたようです。
一歩間違えれば、食べ物・飲み物が肺にまで入り、炎症を起こし、高熱が出て、最悪肺炎になり、大変な思いをするところだったということでした。ご老人だとそれで亡くなる方も多く、肺炎って恐ろしい病気だと思い知らされました。
それを未然に防ぐのが、妖精ちゃんのやっている言語聴覚士の仕事だそうで、この日から顔のリハビリ、顔面の筋トレが始まったのです。
食事に関しても、すべての水分にトロミをつけられ、食事は全て小間切れな生活が退院まで続きました。
トロミ粉というこの世の全てのものをトロトロにしてしまう悪魔の粉があるんですが、水だろうが、みそ汁だろうが、ジュースだろうがなんにでも常温でさらさらっと混ぜるだけでトロトロになります。粉っぽくってほんとにまずいです!
ちなみに、スポーツ女子だと思っていた妖精ちゃんはただの地黒でした(笑)しかも極度の出不精。
ではまた。

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